すべてに神を見いだす眼を

　　　私の先輩にとても元気でパワフルで魅力的な教会の先生がおられます。その先輩と共に、十四年前から全国におられる多くの女性教師をはじめ、教会家庭婦人、女性信奉者の間にネットワークを結び、女性の力を結集して、布教の力とさせて頂こうとの願いを立てて「金光教レディスネットワーク」（通称・ＫＬＮ）という組織を立ち上げ、毎年、各地へ出向いて、その土地の女性教師、信奉者の方と交流させて頂いています。昨年は四国、今年は山口へと私も行かせて頂きました。
　その先輩が先日行った山口集会の講話の中で、ご自分のこれまでのことをお話しして下さいました。そのお話を伺い、私は改めて、いつもの彼女の明るさの元となっている信仰体験に触れ、信心というものの力の偉大さを痛感致しました。やんちゃで、元気印そのものの先輩にも辛い過去があったのです。
　彼女は、七人兄弟の長女として生まれ、どんないたずらや無茶をしても、温かく包み込んでくれて、どんな時も、ひたすら御祈念される、信仰厚いお父様のもとで元気一杯育てられました。ところで、お母様はというと、彼女が物心ついた頃から自律神経を病み、精神的に不安定な状態が長く続き、高校生の頃は、母親らしいことは、ほとんどできなくなり、兄弟たちの世話や家事は長女である彼女がしなければならなかったのです。そんな状態が続いて、彼女が二十歳をすぎた頃 、お母様の病状が更に悪化し、入院することとなりましたが、いつも怖い顔をしてブツブツ文句を言っているお母様が、家にいなくなったことに、むしろホッとして御見舞にも行かなかったそうです。
　そんな時、金光教が大好きだった彼女は、金光教に興味を持ってくれた友人に、金光教の本を見せたり、ご自分も何冊も読みましたが、そんな中でハッと気づかされたのです。「お母さんは病気になりたくてなったのではない。もっと明るく元気でいたかったはずだ。本当に辛いのはお母さんなのではないか。それに、お母さんを無視しているような、こんな私の気持や態度を神様はどんなに悲しんでおられるだろう…」そんな思いが心の底から急に突き上がってきたのだそうです。まさにお母様の向こう側におられる神様を見たのです。
　これまで自分のことばかり考えて、お母様のことを理解しようとする気持が少しもありませんでした。でも、頭の片隅ではいつも気になっていながらも現実から目をそむけ、わざと陽気に過ごして自分をごまかしていました。
　神様と正面から向き合い、金光教の教えに触れる中で、心の中に隠しているものをえぐり出されたような気持を味わいました。「母親のことが願えずにどうして自分が助かるのか。神様に喜んで頂けるのか。もっと神様に喜んで頂けるような私にならなければ自分も助からない」と、この時強く感じたそうです。「これを機会に親孝行な私にならせて下さい」と真剣にお願いしました。すると、隠そうと心の隅に押しやっていた黒い雲がすっかり消えて、心がパーッと晴れ渡り、とても清々しくなってきました。
　その後、思い切ってお母様の面会に行くと、お母様は「こんな所は嫌、早く家に帰りたい」と泣き出したのです。彼女は「かわいそうに」という気持でいっぱいになり、家に帰ってお父様に、「私が何でもするからお母さんを退院させてあげて」と頼みました。そして、十分には快復していないまま、一年ぶりに家に帰ってこられました。それからは、彼女は「お母さんは何もしてくれなくても、笑ってさえいてくれれば良い、何でもさせて頂こう」という気持で家事を進んでするようになりました。そして、しばらくすると、いつの間にか、お母様がお風呂を洗ってくれたり、沸かしてくれたりしてくれるようになりました。長年そんなことを一切したことがなかったお母様が、普通の明るいお母さんに戻っていました。いつもおかしなことばかり言って何もしてくれなかったお母さんの姿はどこかへ消えて、母娘の楽しい会話をしながら一緒に買い物に行ったりできるお母さんがそこにいる、もううれしくて本当に夢のようだったそうです。「神様が私の気持ちをしっかり受け止めて下さったのだ」と心から感謝しました。彼女の心が神様に向かうことで、神心が引き出され、自分が変わって行く、それによってお母様も変わって行き共に助かる世界が生み出されました。
　彼女は、お父様の手厚い信心とお母様の病気に対する葛藤を通して神様を本気で信じ、「金光様ありがとうございます」と心から感謝できるようになったのだそうです。その後、彼女はその神様との出会い＝信仰体験によって目覚めた神様のお働きを伝えるため、教師となって、御用され、また、全国各地を飛び回り、多くの人の助かりを願って、明るく、陽気に語りかけ、パワフルに導かれる取次者、布教者として御用に燃えておられます。
　教祖様は「わが心が神に向かうのを信心という」とみ教え下さっていますが、起きてきた事柄を恨んだり嘆いたりするのではなく、神様に心を向けることによって、その事柄の中に、また、先輩がお母様の向こうに神様を見たように、問題になっている相手の向こうにおられる神様の存在を見いだすことにより、そこに込められた神様のみ思いを知ることができ、そこから共に助かる世界が開けて行くのです。
　どんな時も、神様に心を向け、一つ一つ起きてくる事柄すべてに神様を見いだす眼を養う稽古につとめ、自分も助かり相手も共に助かる信心を実践させて頂き、神様にお喜び頂いて神徳（＝神様からのご信頼）を積み、私たちにつながる御霊様の霊の位をより高きものとさせて頂いて、御霊様にもお喜び頂きましょう。